コラム記事
連棟式建物の切り離し費用はいくら?知らないと損するポイントまで解説
公開日 2026年2月8日
最終更新日 2026年2月26日
越川直之(宅地建物取引士 / 空き家相談士)
代表ブログへ訳アリ不動産1,000件以上の相談実績を持つ、空き家・再建築不可・長屋・共有持分の専門家。株式会社フィリアコーポレーション代表取締役。現場経験に基づき、訳アリ不動産売却の正しい知識を監修しています。
目次
連棟式建物とは
連棟式建物(れんとうしきたてもの)とは、2戸以上の住宅が水平に連なり、隣家と壁を共有して一棟の建物を構成している形式を指します。最大の特徴は、文字通り「壁が一枚でつながっている」という点にあります。不動産の実務上では「連棟(れんとう)」と略されることも多いですが、建築基準法上の分類では「長屋(ながや)」に該当します。
近年では、おしゃれな響きを持つ「テラスハウス」や「タウンハウス」といった名称で呼ばれることが増えていますが、これらも基本的にはすべて連棟式建物の一種です。一戸建てのような独立した玄関を持ち、上下階に他人が住んでいないというメリットがある一方で、構造的には隣家と「一心同体」であるという特殊な性質を持っています。
この「壁を共有している」という構造こそが、将来のメンテナンスやリフォーム、そして本書のメインテーマである「切り離し」において、非常に複雑な問題を引き起こす原因となります。一見すると独立した家が並んでいるように見えても、建物の骨組みや基礎が一体となっているケースが多く、一戸だけを切り離すには高度な技術と法的な手続きが必要とされるのです。

連棟式建物の切り離しにかかる費用
連棟式建物の切り離し費用は、一般的な一戸建ての解体費用を基準に考えていると、見積書を見た瞬間に驚く施主様が少なくありません。隣家と壁や基礎を共有している構造上、単に「重機で建物を壊す」だけでは済まず、残される隣家を傷つけないように慎重に進める「精密な外科手術」のような工程が求められるからです。
一般的な相場としては、150万円〜300万円程度が目安とされますが、立地条件や建物の構造によってはこれ以上の金額になることも珍しくありません。「隣の家とくっついている」というだけで、通常の解体工事に比べて人件費や技術料、そして後のトラブルを防ぐための補修費が重くのしかかってきます。
具体的にどのような名目で、どれくらいの費用が発生するのか。その内訳を大きく以下の3つのステップに分けて詳しく解説します。
- 準備費用
- 建物の解体費用
- 残存する壁面の修復費用
これらの内訳を正しく理解しておくことが、解体業者から提示された見積書が適正かどうかを見極めるための重要な判断基準となります。
①準備費用
切り離し工事を安全、かつトラブルなく進めるための「土台作り」にかかるのが準備費用です。これは単なる雑費ではなく、隣家と密接している連棟式建物において、周辺住民とのトラブルを未然に防ぐための極めて重要な工程と言えます。
主な内訳は、以下の通りです。
- 建物の養生(ようじょう)組み立て・ばらし作業
埃や騒音、破片の飛散を防ぐために建物を囲うシートや足場の設置費用です。
- 散水設備
解体中に発生する粉塵が舞い上がらないよう、水を撒き続けるための設備一式です。
- 重機の回送費用
土間(基礎部分)を解体する際に必要な重機を現場まで運び、終われば撤去するための運搬費です。
これらの準備費用は、工事全体のおよそ10%前後を占めるのが一般的です。「まだ何も壊していないのに」と思われるかもしれませんが、特に道が狭く重機の搬入が困難な現場が多い連棟式建物では、必要不可欠です。ここをコストカットして養生を疎かにすると、隣家からのクレームや建物への損傷を招き、結果として10%どころではない損害賠償に繋がりかねないため、非常に重要な経費なのです。
②建物の解体費用
切り離し工事の総額のうち、約50〜60%という最大のウェイトを占めるのが、この建物本体の解体費用です。ここが割高になる最大の理由は、一戸建ての解体のような「重機による豪快な作業」が封じられ、「手壊し(てこわし)」という極めて手間のかかる手法が中心になるからです。
隣家と壁や柱を共有している以上、重機で一気に壊してしまえば、隣の家まで引きずられて倒壊したり、激しい振動で亀裂が入ったりするリスクがあります。そのため、熟練の職人がバールやノコギリを使い、パズルのピースを外すように少しずつ手作業で解体を進めていかなければなりません。
また、費用の変動幅を大きく左右するのが「どこまで切り離すか」という範囲です。
- 壁のみの共有
比較的スムーズに進みますが、それでも慎重な剥離が必要です。
- 屋根や梁(はり)の共有
屋根が繋がっている場合、雨仕舞い(防水処理)を考慮しながらの高度な切断技術が求められ、人件費がさらに跳ね上がります。
まさに「壊す」というよりは「外科手術で切り離す」という感覚に近い作業となるため、工期も長くなり、それに比例して人件費としての解体費用が膨らんでいくのが、連棟物件の避けられない現実です。
③残存する壁面の修復費用
切り離し工事の最終工程にして、実は最も重要と言っても過言ではないのが、この隣家の壁面修復です。費用の割合としては、全体の約40%と、解体そのものに匹敵する大きな比重を占めます。「柱の適切な補強、断熱材の充填、下地パネルの設置、サイディング張り」というフルセットの工事を行うと、それだけで数百万円以上の費用がかかることも珍しくありません。
特におろそかにできないのが、構造体である柱の補強です。切り離しによって、それまで棟全体で支え合っていた強度が低下しがちなため、壁を作るだけでなく柱もしっかりと補修・補強しなければ、建物の寿命を縮めることになります。
また、地上部分だけでなく、基礎の断面処理や、地中を通っている給排水管の切り回しが必要になるケースも多々あります。
- 基礎の補修
繋がっていたコンクリートの切断面を適切に保護。
- 配管トラブル
隣地を跨いで配管が通っている場合、これを無視して工事を強行すると大変なことになります。
この工程をケチってしまうと、隣家で深刻な雨漏りや断熱性能の低下が発生し、高額な損害賠償を請求されるリスクが跳ね上がります。また、切り離しによって失われた構造的な強度を補うための補強工事が含まれることも少なくありません。「自分の分を壊すだけ」という考えは通用せず、隣家を「外壁のある家」として完結させるためのコストこそが、連棟物件における円満解決のための必要経費なのです。
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連棟式建物の切り離しの注意点
連棟式建物の切り離しは、単に自分の持ち分を解体するだけの工事ではありません。権利関係、建物の構造的な安全性、そして近隣住民との人間関係が複雑に絡み合う、非常に難易度の高いプロジェクトです。これまで多くの「訳あり物件」の最前線に立ってきた経験から言えるのは、事前の確認を一項目でも怠ると、工事中や工事後に取り返しのつかないトラブルに発展するということです。
「せっかく費用をかけて切り離したのに、隣人と裁判沙汰になった」「更地にしたけれど、法的な問題で家が建てられない」といった事態を避けるためには、技術的な側面だけでなく、法的なリスクや生活インフラへの影響まで、多角的な視点でチェックを行う必要があります。一度壊してしまった建物は二度と元には戻せません。隣家への配慮を欠いた強引な進め方は、多額の賠償金請求や、将来の売却の足かせとなる「瑕疵(かし)」を生む原因となります。
円満かつ安全にプロジェクトを完了させるために、着工前に必ず確認しておくべき致命的な注意点は以下の6点です。
- 着工前に建物の状態を確認できているか
- 所有者の9割以上の同意を得られているか
- 隣家とネット回線を共有していないか
- 修繕責任の所在は明確か
- 残存家屋の耐震性は低下していないか
- 残存家屋が法令に適合しているか
これらのポイントを一つずつ丁寧にクリアしていくことが、リスクを最小限に抑え、資産価値を確実に守るための唯一の道です。

着工前に建物の状態を確認できているか
切り離し解体は、例えるなら「くっついた双子を分ける外科手術」です。長屋の構造を支える柱には、自分の家と一緒に解体して良いものと、隣家の強度を保つために絶対に残すべきものが複雑に入り混じっています。この見極めを誤り、残すべき柱を傷つけたり撤去したりすれば、隣家の耐久性は一気に損なわれ、最悪の場合は建物の歪みや崩落といった致命的なトラブルを招くことになります。
また、実務上で最も恐ろしいのが、工事が終わった後の「言った言わない」の責任追及です。解体後に隣人が「お宅の工事のせいで壁にヒビが入った」「建付けが悪くなった」と主張してきた際、客観的な証拠がなければ反論のしようがありません。実際には工事前からあった古い傷であっても、証拠がなければ修繕費用をすべて押し付けられるという理不尽な事態に追い込まれます。
こうした泥沼のトラブルを防ぐために、着工前の「家屋調査」は絶対に欠かせません。専門の調査会社に依頼し、隣家の既存のクラック(ひび割れ)、壁の傾き、建具の動きなどを写真と数値で詳細に記録しておきましょう。
所有者の9割以上の同意を得られているか
連棟式建物の切り離しにおいて、多くの人が陥る罠が「隣の家の人さえOKと言えば大丈夫」という思い込みです。土地が分筆(住戸ごとに分けられている)されていれば、一見して独立した権利を持っているように見えますが、実務上の法解釈はそう単純ではありません。
実は過去の重要な判例(東京地裁平成25年8月22日)において、構造的に一体となっている連棟式建物で建て替えを行う際、「区分所有法第62条」に準じた建て替え決議が必要であると判断されたケースがあります。つまり、直接接している隣人だけでなく、その棟(あるいは団地全体)の所有者たちと法的な合意形成を行う必要があるということです。
法律上の建て替え決議の基準は「全所有者の5分の4(80%)以上」の賛成ですが、実務レベルで後の紛争を確実に封じ込めるなら、社長が掲げる「9割以上」という高い合意率を目標にするのが最も安全な戦略と言えます。
「自分の土地だから自由だ」という理屈は、連棟物件の法務においては通用しないケースが多々あります。1軒でも強硬な反対派がいれば、工事差し止めや損害賠償のリスクは消えません。全体の調和と合意形成を最優先することが、結果として最も安く済む近道になります。
隣家とネット回線を共有していないか
連棟式建物の解体で、意外と見落とされがちなのが「通信インフラの共有」です。特に、電話線やインターネット回線、ケーブルテレビの配線といった空中を走るインフラは要注意です。古い長屋の場合、隣家のネット回線があなたの家の軒先を経由して引き込まれていたり、複数の住戸の配線が一本の束になって外壁を伝っていたりするケースが多々あります。
もしこれを確認せずに解体工事を強行し、誤って隣家の回線を切断してしまったらどうなるでしょうか。隣人は突然インターネットが使えなくなり、仕事や生活に支障をきたします。現代においてネットが遮断されるストレスは非常に大きく、それが原因で激しいクレームに発展したり、再接続費用だけでなく業務上の損害を賠償請求されたりするリスクも孕んでいます。
着工前には、必ず自分の家の周りを見渡し、隣家へ繋がっているような不自然なケーブルがないかを目視で確認してください。もし共有や経由の疑いがある場合は、NTTや電力会社、CATV会社へ事前に連絡し、配線の移設(切り回し)を依頼する必要があります。この調整には数週間かかることもあるため、解体スケジュールが決まったら真っ先に着手すべきポイントです。
修繕責任の所在は明確か
切り離し工事が終わった直後は問題がなくても、本当の試練は数年〜数十年後にやってきます。新たに作り直した隣家の外壁に雨漏りが発生したり、外装材が剥がれたりした際、「誰の責任で、誰が費用を出して直すのか」という問題が必ず浮上するからです。この責任の所在を曖昧にしたまま工事を終えてしまうと、将来にわたって隣人から無限に修繕を要求される「終わりのない火種」を抱えることになりかねません。
トラブルを回避するためには、着工前に必ず、詳細な条件を記した「合意書(覚書)」を書面で取り交わしておくことが不可欠です。
- 初期不良の保証期間:工事後、何年までの不具合を施工主が保証するか。
- 経年劣化の扱い:十数年後の劣化による修繕は、当然ながら隣人(所有者)の負担であることを明記する。
- 将来の所有者への継承:相続や売却で所有者が変わっても、この合意を引き継ぐ旨を記す。
「隣とは長年の付き合いだから口約束で大丈夫」という油断は禁物です。隣家が売却されたり相続が発生したりして所有者が変わった瞬間、その「情」は通用しなくなります。法的な拘束力を持った文書をプロの目を通して作成しておくことこそが、自分自身と将来の資産価値を守るための最優先事項です。
残存家屋の耐震性は低下していないか
連棟式建物は、いわば「お互いにがっちりと肩を組んで立っている」状態です。一戸を切り離すということは、残された建物から重要な支えを奪い去ることに他なりません。物理的に建物を支える柱の本数が減り、基礎の面積が削られることで、残存家屋の耐震性能は確実に、そして劇的に低下します。
特に古い長屋の場合、建物全体が一体となって地震の揺れを逃がす設計(構造計算)がなされています。壁や梁が隣家と補完し合っているため、一部を切り離すとその絶妙なバランスは無残に崩れます。
- 耐力壁の消失:揺れに耐えるための壁が失われ、建物が特定の方向に傾きやすくなります。
- 偏心の発生:重心と剛心のズレが大きくなり、地震時に建物が「ねじれる」ように倒壊するリスクが高まります。
「ただ壊して壁を張ればいい」という安易な考えは、隣人の命を危険にさらす行為です。切り離しを強行して残された家が地震で倒壊した場合、その責任は計り知れません。切り離しとセットで、残存家屋に対する適切な「耐震補強工事」を予算と計画に必ず盛り込むことが、プロとして、そして良き隣人としての絶対条件です。
残存家屋が法令に適合しているか
切り離しによって最も恐ろしいのは、残された隣家が「既存不適格」や「違法建築」になってしまうリスクです。もともと一棟の建物として建築確認を受けていた場合、一部を切り離すことで隣家の「建ぺい率」や「容積率」が法定基準をオーバーしてしまうことがあります。また、敷地を分けた結果、隣家が「接道義務(道路に2m以上接する)」を満たせなくなったり、高さ制限などの「斜線制限」に抵触したりするケースも珍しくありません。
さらに、物理的な「越境物」の問題は非常にシビアです。それまで一体だったものを強引に分けるため、以下のようなものが境界を越えて残ってしまうことが多々あります。
- 雨どいや屋根のひさし
- 隣家の外壁(仕上げの厚み分)
- 地中に埋まった基礎や配管
これらが自分の土地にはみ出している状態は、将来その土地を売却したり新築したりする際に、重大なトラブルの火種となります。隣家を「法的に不備のある家」にしてしまえば、資産価値を毀損させたとして、解体工事の差し止めや多額の損害賠償を求められるリスクがあることを、肝に銘じておくべきです。
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連棟式建物の切り離しに関するよくある質問
不動産で「切り離し」とは何ですか?
不動産実務における「切り離し」とは、文字通り隣家と物理的・構造的に一体化している建物を分断する作業を指します。一戸建ての解体であれば、自敷地内の建物を重機で壊すだけで完結しますが、長屋(連棟式建物)の場合はそうはいきません。壁や柱、ときには屋根や基礎までを隣家と共有しているため、それらを傷つけずに分離させる高度な工程が必要となり、これを一般の解体と区別して「切り離し」と呼びます。
この作業には、目的によって大きく分けて以下の2つのケースがあります。
- 独立した住宅として利用するための切り離し
共有していた壁や屋根を分け、新たに独立した外壁を新設し、構造補強を行うケースです。これにより「連棟の一部」という制約から脱却し、一戸建てに近い状態で売却やリフォームを行いやすくする狙いがあります。
- 一部を解体するための切り離し
連棟のうち、老朽化した空き家部分や不要な区画のみを取り壊し、残りの住戸を維持・存続させるケースです。土地の一部を更地にして有効活用したい場合や、管理不全による倒壊リスクを避けるために行われます。
どちらのケースも、隣家の安全性と権利を侵害しないことが絶対条件となる、非常にデリケートな「精密工事」と言えるでしょう。
連棟式の切り離しは法律で制限されていますか?
結論から申し上げますと、連棟式建物の切り離しそのものを直接禁止する法律はありません。しかし、これは「自由に壊していい」という意味ではありません。切り離した後の状態が建築基準法に適合していることが絶対条件となります。
もし切り離しによって、容積率・建ぺい率のオーバー、接道要件の欠如、斜線制限の違反といった規定に抵触する場合、その切り離し行為自体が「不法行為」とみなされるリスクがあります。特に恐ろしいのは、切り離された側の残存家屋が「違法状態」になってしまうケースです。隣人の家を法的に不備のある建物に変えてしまえば、その方の将来の売却や融資を妨げることになり、甚大な損害賠償問題に発展しかねません。
こうした法的なハードルに加え、複雑な利害関係の調整が必要となるため、私の経験則から申し上げても、実際に連棟の切り離しを完遂した事例はごく稀です。理屈では可能であっても、現場レベルで「すべての法規と隣人の合意」をクリアするのは、奇跡に近いほど困難な道なのです。
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越川直之(宅地建物取引士 / 空き家相談士)
代表ブログへ
株式会社フィリアコーポレーション代表取締役の越川直之です。
当社は空き家や再建築不可物件、共有持分など、一般的に売却が難しい不動産の買取・再販を専門とする不動産会社です。
これまでに1000件以上の相談実績があり、複雑な権利関係や法的・物理的制約のある物件にも柔軟に対応してきました。
弊社ホームページでは現場経験に基づいた情報を発信しています。
当社は地域社会の再生や日本の空き家問題の解決にも取り組んでおり、不動産を通じた社会貢献を目指しています。
