日影規制

概要

日影規制(ひかげきせい)とは、建築基準法に基づいて、一定の地域において、建物の影が隣接地や道路などに、特定の時間帯において一定の時間以上かからないように制限する規制のことです。特に住居系地域など、日照の確保が重要視される地域で適用されます。高層建築物の乱立による日照阻害を防ぎ、周辺住民の快適な生活環境を保護することを目的としており、建物の高さや形状に大きな影響を与えます。

日影規制の目的と対象区域

日影規制は、都市における日照権を守るために設けられた建築基準法上の重要な規制です。


日影規制の目的

日照権の保護:住宅地における住民の健康で文化的な生活を保障するため、隣接地や道路への日照を確保します。特に冬至の日を基準とすることで、一年で最も日差しが低く、影が長くなる時期でも最低限の日照を確保しようとします。

良好な住環境の維持:高層建築物の乱立による圧迫感を軽減し、通風や採光、プライバシーの確保など、快適な居住環境を維持します。

都市環境の秩序形成:建物間の適切な距離を保ち、無秩序な建物の配置を防ぐことで、計画的で健全な都市の景観を形成します。


日影規制の対象区域
日影規制は、都市計画区域内の用途地域において、地方公共団体が条例で指定する区域に適用されます。主に、日照を特に保護する必要がある住居系の用途地域(例:第一種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域、第一種住居地域など)や、商業地域・工業地域であっても周辺に住居が混在する区域などで指定されます。

具体的には、以下のいずれかの高さ(「高さ規制の対象となる建築物」)を超える建物が規制の対象となります。

軒の高さが7メートルを超える建築物
地盤面からの高さが20メートルを超える建築物

この規制に該当する建物を計画する際には、その建物の影が隣接地や道路に落ちる時間を計算し、条例で定められた許容時間内に収まるように設計しなければなりません。

日影時間の測定と建物の形状への影響

日影規制は、特定の日の特定の測定面において、建物の影が落ちる時間を計算することで適用されます。


日影時間の測定方法
日影時間は、通常、冬至の日(一年で最も太陽高度が低く、影が長くなる日)を基準に測定されます。測定方法は以下の要素で構成されます。

測定時刻:午前8時から午後4時までの間(地域によって午前9時から午後3時までの間となる場合もあります)。この時間帯に、敷地境界線からの距離(例:5メートルライン、10メートルライン)や道路境界線からの距離にある測定面(通常は地盤面から4メートルまたは1.5メートルの高さ)に、建物の影が何時間かかるかを計算します。

許容時間:各自治体の条例で、この測定面に影がかかっても良い最大時間が定められています(例:1時間、2時間など)。

計算方法:専門のソフトウェアや日影図作成用のCADソフトなどを用いて、建物の形状、高さ、敷地の位置、緯度、真北との関係などを入力し、太陽の動きをシミュレーションして日影時間を算出します。


建物の形状への影響
日影規制は、建物の高さと形状に大きな影響を与えます。

高さの制限:日影規制がある区域では、建物の高さを単純に高くすることはできません。影が許容時間を超えないように、高さを抑える必要があります。

日影斜線:影が伸びる方向と時間によって、建物を建てられる空間が斜めに制限されるため、「日影斜線」と呼ばれる制約が生まれます。これにより、建物の上階に行くほどセットバックしたり、一部が切り欠かれたりする、独特の形状になることがあります。

建物の配置:日影規制をクリアするためには、敷地内で建物の配置を工夫したり、南側に開放的な空間を設けたりするなど、設計上の制約が増えます。


このように、日影規制は、建築設計の自由度を制約する一方で、周辺環境への配慮を促し、都市全体の日照環境を保つ重要な役割を担っています。

日影規制と「訳アリ不動産」の売却

当社フィリアコーポレーションが専門とする「訳アリ不動産」の中には、日影規制の影響を大きく受ける物件が少なくありません。特に、老朽化した空き家で建て替えを検討する場合や、再建築可能な土地であっても、この日影規制が売却の大きな障壁となることがあります。

具体的な課題としては以下の点が挙げられます。


建築計画の制約とコスト増:日影規制が厳しい地域では、新しく建物を建てたり、既存の建物を増改築したりする際に、設計の自由度が大幅に制限されます。例えば、希望する階数や延床面積の建物を建てられなかったり、複雑な形状の建物にせざるを得なかったりします。これにより、建築コストが増加したり、建築家への設計料が高くなったりする可能性があります。

資産価値の低下:日影規制の影響で、建てられる建物の規模が小さくなる場合や、不整形な形状にせざるを得ない場合、その土地の最大限のポテンシャルを引き出せず、結果的に資産価値が低くなることがあります。特に、高い容積率が指定されているにもかかわらず、日影規制によってその容積を使い切れない土地は、潜在価値と実効価値の乖離が生じます。

買い手が見つかりにくい:一般の買主(特に注文住宅を建てたい個人や、収益物件を建てたいデベロッパー)は、日影規制による建築制限やコスト増を嫌がるため、買い手探しが難航します。土地の広さだけを見て購入を検討したものの、日影規制を考慮すると希望の建物が建てられないとわかり、購入を断念するケースも珍しくありません。

既存不適格建築物の問題:日影規制は建築基準法改正により厳しくなってきた経緯があるため、規制施行以前に建てられた建物の中には、現在の基準では日影規制に適合しない「既存不適格建築物」も存在します。これらの物件を建て替えたり、大規模増改築を行ったりする際には、現在の厳しい日影規制に適合させる必要があるため、建物規模が小さくなるなど、資産価値を下げる要因となることがあります。


当社フィリアコーポレーションは、このような日影規制によって売却が困難となった「訳アリ不動産」の買取を専門としています。私たちは、1,000件以上の相談・査定実績から得た実務に基づいたリアルな知見を活かし、日影規制が及ぼす影響や、それに対する建築計画の可能性を理解した上で、売主様の状況に応じた最適な解決策をご提案することが可能です。

当社は、契約不適合責任の免除、残置物の処理不要、隣人交渉不要といった形で、売主様の心理的・実務的負担を大幅に軽減することを強みとしています。日影規制によって売却を諦めていた不動産であっても、当社が直接買い取ることで、売主様は安心して物件を手放すことができます。机上の理論だけでなく、現場で培った対応力と解決事例に基づいて、他の不動産会社では対応が難しい「訳アリ不動産」の売却をサポートすることが当社の強みです。

よくある質問

Q

日影規制は全ての地域で適用されるのですか?

A

いいえ、日影規制は全ての地域で適用されるわけではありません。日影規制は、都市計画区域内の用途地域のうち、地方公共団体が条例で指定する区域にのみ適用されます。主に、日照の確保が重要視される住居系の地域(第一種低層住居専用地域、第一種中高層住居専用地域など)や、住居と商業・工業が混在する地域などで適用されます。商業地域や工業地域など、日照よりも土地の高度利用が優先される地域では、原則として日影規制は適用されないことが多いです。ご自身の物件がある地域に日影規制が適用されているかどうかは、各市区町村の都市計画課や建築指導課で確認することができます。

Q

日影規制によって、建物の高さはどのくらい制限されますか?

A

日影規制による建物の高さ制限は、一概に「〇メートルまで」とは言えません。建物の高さだけでなく、建物の形状、敷地の広さ、敷地が道路や隣地からどれだけ離れているか、そしてその地域の許容日影時間など、様々な要素によって変動します。例えば、同じ地域であっても、敷地の中央に建物を配置すれば影が短くなるため高く建てられますが、敷地の北側に寄せて建てると影が伸びるため、高さを抑える必要があります。また、建物の上階をセットバックさせたり、一部を切り欠いたりして、影の長さを調整することで、指定日影時間をクリアできるように設計されます。そのため、日影規制がある地域では、建築士などの専門家が日影図を作成し、シミュレーションを行いながら建物の高さを決定していきます。

Q

日影規制に違反するとどうなりますか?

A

日影規制は建築基準法に基づく規制であるため、これに違反して建物を建てた場合、建築確認申請が不許可となり、そもそも建築することができません。もし、建築確認を得ずに(あるいは虚偽の申請で)違反して建ててしまった場合、その建物は「違反建築物」となり、以下のようなリスクを抱えることになります。


1.行政指導・是正命令:行政(特定行政庁)から、日影規制に適合するように建物を是正(例えば、一部を撤去するなど)するよう指導や命令が出されることがあります。これに従わない場合、罰金や、最悪の場合は除却命令が出される可能性もあります。

2.住宅ローンの利用が困難:違反建築物は、金融機関の担保評価が著しく低くなるため、住宅ローンや不動産担保ローンの融資をほとんど受けることができません。

3.売却の困難さ:違反建築物であるため、一般の買主は購入を敬遠します。売却しようとしても、買い手が見つからず、価格も大幅に下落する傾向にあります。日影規制は、建物の設計に大きな影響を与えるため、建築計画の初期段階から専門家と相談し、法規に適合した建物を計画することが非常に重要です。

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